[書評] 国家の謀略
国家がインテリジェンスに力を入れるのは、なぜなのか?
「国家の謀略」は元外務省国際情報局の分析第一課主任分析官である佐藤優氏の著作だ。現在は起訴休職外務事務官という肩書きであり、ロシア、イスラエルに詳しいインテリジェンスの専門家として知られている。著書に書かれている佐藤氏のインテリジェンス論を少しだけ紹介しよう。
・インテリジェンスとは?
佐藤氏によれば、インテリジェンスの定義は次の通り。
"謀略とは、こちらの弱点をできるだけ隠し、有利な点を誇張することにより、実力以上の成果を相手から獲得することである。"
つまり、インテリジェンスは何らかの成果を得るという目的があっての行動だ。言い換えれば、自分が有利になるような価値のある情報を入手するか、自分が有利になるような行動を相手にさせることだろう。
情報の入手の原則については、次のように述べられている。
"ヒュミントの世界には価値ある情報を入手できるかどうかの基準が2つある。第1は協力者がこちら側の知りたがっている情報を入手できる立場にいるかどうか。第2に協力者が入手した情報を正確に教えてくれるかである。"
相手の行動に影響を与える方法については、次の通り。
"イギリスの対敵謀略宣伝本部クルー・ハウスは宣伝を「他人が影響を受けるように物事を陳述すること」と定義したが、これは簡潔で、実際的な定義だ。"
どちらも非常に簡潔な表現だが、この原則をふまえた上で、あらゆる手を尽くすのがインテリジェンスの世界と言えるだろう。
・日本がインテリジェンスを使いこなすには?
苦労して得た情報は、使われなければ意味がない。どのように使うべきだろうか?
佐藤氏はインテリジェンスを使いこなせる理想的な国家の仕組みについても言及している。
"国家首脳は、分野別に専門能力の高いインテリジェンス専門家を数名選び、首脳が関心をもつ事項についてのみ当該専門家に真実を率直に語ることを命ずる。各専門家は自己の専門分野についてのみ意見を述べ、専門知識のない分野について余計なことは言わない。"
日本には様々なインテリジェンスに関わる機関があるが、最終的な判断は1人の政治家の決断にゆだねられる。情報を正しく使うためには、都合の悪い情報をもたらす専門家を排除せず、常にバランスのとれた公正な組織を維持することが重要なのかもしれない。
・日本とはどんな国か?
ところで、世界から見た日本はどんな国だろうか?
佐藤氏は国際的な視点から、日本の思想や宗教観についても分析している。
"「日本人は、宗教に疎い」ということがよく言われているが、それは違う。文化庁が毎年発行する『宗教年鑑』によれば神道系、仏教系、キリスト教系の信者だけでのべ2億人を超えている。日本人には、宗教混淆(シンクレティズム)という独特の宗教観、すなわち子供のときは七五三のお宮参り、結婚式はキリスト教、葬式は仏教であることに違和感をもたない。宗教が過剰になっているのである。"
実は日本は宗教過剰だった。宗教混淆(シンクレティズム)という独特の宗教観は日本人の持つ独特なパワーの源なのかもしれない。
・国家がインテリジェンスに力を入れる理由とは?
私感だが、インテリジェンスの分野からは、国民の世論と、政策を担当する重要人物の考え方、という2つの異なる要素が国家の意思決定を左右しているように見えるのではないか。国家に限らず、組織の意思決定のプロセスに関する情報を収集し、その脆弱性を具体的に分析する行動こそがインテリジェンスであり、国家にとって、欠かすことのできない機能なのかもしれない。
◇参考
国家の謀略(佐藤 優)
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