May 2009
[書評] 国家の謀略
国家がインテリジェンスに力を入れるのは、なぜなのか?
「国家の謀略」は元外務省国際情報局の分析第一課主任分析官である佐藤優氏の著作だ。現在は起訴休職外務事務官という肩書きであり、ロシア、イスラエルに詳しいインテリジェンスの専門家として知られている。著書に書かれている佐藤氏のインテリジェンス論を少しだけ紹介しよう。
・インテリジェンスとは?
佐藤氏によれば、インテリジェンスの定義は次の通り。
"謀略とは、こちらの弱点をできるだけ隠し、有利な点を誇張することにより、実力以上の成果を相手から獲得することである。"
つまり、インテリジェンスは何らかの成果を得るという目的があっての行動だ。言い換えれば、自分が有利になるような価値のある情報を入手するか、自分が有利になるような行動を相手にさせることだろう。
情報の入手の原則については、次のように述べられている。
"ヒュミントの世界には価値ある情報を入手できるかどうかの基準が2つある。第1は協力者がこちら側の知りたがっている情報を入手できる立場にいるかどうか。第2に協力者が入手した情報を正確に教えてくれるかである。"
相手の行動に影響を与える方法については、次の通り。
"イギリスの対敵謀略宣伝本部クルー・ハウスは宣伝を「他人が影響を受けるように物事を陳述すること」と定義したが、これは簡潔で、実際的な定義だ。"
どちらも非常に簡潔な表現だが、この原則をふまえた上で、あらゆる手を尽くすのがインテリジェンスの世界と言えるだろう。
・日本がインテリジェンスを使いこなすには?
苦労して得た情報は、使われなければ意味がない。どのように使うべきだろうか?
佐藤氏はインテリジェンスを使いこなせる理想的な国家の仕組みについても言及している。
"国家首脳は、分野別に専門能力の高いインテリジェンス専門家を数名選び、首脳が関心をもつ事項についてのみ当該専門家に真実を率直に語ることを命ずる。各専門家は自己の専門分野についてのみ意見を述べ、専門知識のない分野について余計なことは言わない。"
日本には様々なインテリジェンスに関わる機関があるが、最終的な判断は1人の政治家の決断にゆだねられる。情報を正しく使うためには、都合の悪い情報をもたらす専門家を排除せず、常にバランスのとれた公正な組織を維持することが重要なのかもしれない。
・日本とはどんな国か?
ところで、世界から見た日本はどんな国だろうか?
佐藤氏は国際的な視点から、日本の思想や宗教観についても分析している。
"「日本人は、宗教に疎い」ということがよく言われているが、それは違う。文化庁が毎年発行する『宗教年鑑』によれば神道系、仏教系、キリスト教系の信者だけでのべ2億人を超えている。日本人には、宗教混淆(シンクレティズム)という独特の宗教観、すなわち子供のときは七五三のお宮参り、結婚式はキリスト教、葬式は仏教であることに違和感をもたない。宗教が過剰になっているのである。"
実は日本は宗教過剰だった。宗教混淆(シンクレティズム)という独特の宗教観は日本人の持つ独特なパワーの源なのかもしれない。
・国家がインテリジェンスに力を入れる理由とは?
私感だが、インテリジェンスの分野からは、国民の世論と、政策を担当する重要人物の考え方、という2つの異なる要素が国家の意思決定を左右しているように見えるのではないか。国家に限らず、組織の意思決定のプロセスに関する情報を収集し、その脆弱性を具体的に分析する行動こそがインテリジェンスであり、国家にとって、欠かすことのできない機能なのかもしれない。
◇参考
国家の謀略(佐藤 優)
[書評] ちょっと自慢のパリごはん
「ちょっと自慢のパリごはん」は、料理研究家の脇雅世さんが書いたフランス料理のレシピ本だ。
コンセプトは次の通り。
"パリっ子のふだんの食卓にみつけたおいしい知恵とワザをお届け"
パリで修行した脇雅世さんはマツダ・レーシング・チームの料理長として24時間耐久レース「ル・マン」に参戦した経験もある。フランスの家庭料理の技術だけでなく、その背景となる考え方や文化にも通じていて、パリっ子が日常的に作っている料理を日本でも簡単に作れるように紹介している。
中でも特にラタトゥイユの作り方の解説には新鮮な驚きがあったので、少しだけ紹介したい。
・おいしいラタトゥイユを作るには?
ラタトゥイユとは、なす、ズッキーニ、パプリカ、トマト、たまねぎなどの色とりどりの夏野菜をオリーブオイルで炒めて煮込んだ料理。華やかで、野菜をだれでも簡単においしく食べられる最高の料理だ。脇雅世さんによれば、その極意は「野菜に汗をかかせる」ということ。
"フランスで教わったのは、たっぷりのオリーブ油でひとつの野菜を炒めたら油をザルで濾して、その油で次の野菜を炒める。それを繰り返すというものでした。ただし野菜は、硬さも形状も密度もそれぞれ違うため火の通り方も違います。どの程度いためればいいのかは作り慣れていただくしかないのですが、よくいわれるのは、野菜に汗をかかせるようにするということ。野菜が「熱いよー」とジワーッと汗をかいてきて、ほんのり少し焦げ目もついてきたくらいが目安です。"
実際に作ってみたところ、1時間弱でおいしいラタトゥイユが完成した。
冷蔵庫で保存しても翌日おいしく食べられるので、休日にたくさん作ってみてはいかが?
◇参考
・ちょっと自慢のパリごはん (脇 雅世)
新しさと歴史が調和する国際都市、神戸に行こう!
神戸は、北と南を六甲山地と明石海峡に挟まれた港町だ。雰囲気は、どことなく横浜に似ている。
三宮駅を出て町に繰り出すと、いきなり人通りの多い繁華街。いろんな世代の人がいて、なんだか渋谷みたいだ。世代を問わず人々には活気があって、若者に人気のスタイリッシュなお店の隣に昔ながらの商店が混在している。
少し海に向かって歩いて行くと、南京町と呼ばれる中華街にたどりつく。横浜の中華街と比べれば小さいが、にぎやかさでは負けていない。一軒一軒のお店に肉まんや焼豚などがところ狭しと並んでいて、胃がたくさんあったら全部食べてみたいくらいだ。
さらに海へと歩いて行くと、近代史を連想させる建築がならぶ旧居留地と元町がある。旧居留地ではリノベーションにより近代建築が最先端のブランド店に変わっている。なんとなく大手町に似ているかもしれない。元町ではやや小さな洋館が若者達の集まるカフェやセレクトショップに変わっていて、ちょっと自由が丘な雰囲気だ。カフェにはおいしいデザートが並んでいて、神戸の名物はやっぱり洋菓子なのかもしれない。
そして、海岸へ。一面に海を見渡すことができる。メリケンパークの傍らにはかつての阪神大震災のときに壊れた港の一部が残っている。
たった数時間歩いただけでこれだけ楽しめる場所は少ないと思う。新しさと歴史が調和する国際都市、神戸へ行こう!
[書評] コーチングの神様が教える「できる人」の法則
最強のビジネス・リーダーになるためには、なにが必要なのか?
「コーチングの神様が教える「できる人」の法則」は、すでに数々の成功を収めつつあるエリート・ビジネスマンを、さらに上のトップ・エグゼクティブへと変えるために必要なアドバイスの極意をまとめた本だ。
著者のマーシャル・ゴールドスミス氏はエグゼクティブ・コーチングを専門とする人物で、ジャック・ウェルチ元GE会長などをはじめ、世界的大企業の経営者80人以上をコーチしたことで知られている。訳者あとがきによればコーチング料は25万ドル。そんなコーチングのプロが会得した極意の中から、私の印象に残った内容を少しだけ紹介したい。
・自分を変えるには?
コーチングとは、個人の能力を可能な限り引き出すための人材開発の方法。中でもゴールドスミス氏がコーチングの対象としている顧客は、すでに世界的大企業で目覚ましい出世を遂げている人物だ。たいていは、CEOなどのトップ・エグゼクティブが、ある人物を自分の後継者として育てたいと思った時にコーチングが始まることになる。
原著のタイトルは「What Got You Here Won’t Get You There」。つまり、あなたがこれまでに遂げてきた数々の成功で得た経験や能力は、これから必要になるものとは違います。だから、変化が必要です!ということ。そして、コーチングで最も困難なことは、過去の成功体験から自信を持っているエリート・ビジネスマンにどうやって変化を受け入れさせるか?という点なのだ。ゴールドスミス氏は、その極意を次のように書いている。
"私の経験では、自分が心から価値を置くものが脅かされて初めて、人は変わろうとする。"
たとえば、現状のあなたは順調に仕事をこなしているから、目先の仕事は成功するだろう。しかし長い目で見れば、あなたは自分のちょっとした悪い癖のせいで将来、家族や仕事を失うかもしれない。そういった問題があるということをきちんと認識すれば、人は変わることができるのだ。
著書の中では、変化させるべき項目としてリーダシップの行動にかかわる20の悪い癖が紹介されている。結論は意外とありきたりだが、具体例に富んでいて参考になる内容が多かった。中でも、私が特に印象に残った具体例を3つ、順番に紹介していこう。
・素直になろう!
ゴールドスミス氏いわく、たとえ大企業の経営者になったって、素直が一番。こんなユニークな体験が挙げられている。
"二八歳のとき、ニューヨークの超高級フレンチ・レストラン《ル・ペリゴール》で一人で食事をしたときのこと。そのようなレストランに私はそれまで行ったことがなかった。ウエイターはタキシードを着込み、近寄りがたいフランス語訛りで話していた。私はウエイターに、正直に告白した。私はこの雰囲気に気おされていること、チップも含めて一〇〇ドルしか食事に使えないこと、手書きのフランス語で書かれたメニューを読めないことを話した。(略)私が自分は田舎者だと認めたら、レストランのスタッフはそれに応えて、私を太陽王ルイ一四世のようにもてなしてくれた。"
・相手の話を聞く!
また、ゴールドスミス氏は、たとえ短い時間であったとしても、対面する相手に全力で注目する行動こそがリーダーに不可欠な能力だと述べている。たとえば、ビル・クリントン氏の次のような行動がお手本だ。
"国家元首であろうが、ベルボーイであろうが、ビル・クリントンは話しかけられているとき、その場にはあなたしか存在しないかのように聞く。彼の目からボディランゲージまですべてのものが、あなたの話に聞き入って身動きできないと伝える。彼は、彼がいかに重要かではなく、あなたがいかに重要かを伝える。"
ある年老いたエグゼクティブも、同様の行動で人望を得ているようだ。
"ロンドンのレストランである年老いたエグゼクティブがいつも世界屈指の美女をともなって食事をしているのを見かけるという。彼は、ハンサムなわけでも異性を惹きつける魅力があるわけでもない。背が低く二重あごで、太りすぎているし、はげていて、年齢は優に七〇歳を超えている。友人は一人の女性に、どうしてこの男に魅力を感じるのかと尋ねた。彼女はこう答えた。「彼はぜったいに私から目をそらさないの。女王様が入ってきても、彼は目をそらさないで、一〇〇%私に注意を向けていると思う。それって抵抗しがたいわ。」"
・本当に大事な物を見失わないこと!
自分の行動を変えようとする時は、その目的が重要だ。目先のノルマを達成しても会社が成長するとは限らないし、たくさんお金を稼いでも家族が幸せになるとは限らない。重要なのは自分のミッションの全体像を常に把握することだ。著書では次のような失敗例が述べられている。
"広い意味で「目的に執着する」ということは、自分の目的達成に夢中になるあまり、さらに大きなミッションを犠牲にしてしまうような行動を指す。人生に何を求めるかを誤解するところからこれは始まる。"
たとえば、今の私だったら「家族や周りの人と楽しい時間を過ごすこと」「新しいものを作って世界の役に立つこと」が大きなミッションだ。たとえ目先のチャンスがあっても、このミッションに反する行動はするべきではないと思う。
みなさんのミッションは何だろうか。ゴールドスミス氏の著書は、自分を見つめ直す良い機会にもなる。





